コラム:ニコニコ動画史におけるコマンドー動画の変遷について~後編~
注意:本記事はニコニコ動画のブログサービス通称「ブロマガ」にて2017年6月5日に公開された記事をブロマガ終了に伴って移行したものになっております。
はい、お待たせいたしました。
コマンドー動画はニコニコにおいてどのような変遷を辿ったのか、2011年以降を取り上げていきたます。
3.多様化するコマンドー動画~コマンドー動画の様々な可能性~
日常OPMADから年が明け2012年、バレンタインとかいう糞だめみたいなイベントを一週間後に控えた2月7日、アイドルマスター(以下アイマス)とコマンドーを掛け合わせた「ドンパチマスター(以下ドンマス)」が投稿されます。
アニメ本編にコマンドーのセリフを挿入しただけというシンプルな作りではありますが、アイマスの女の子たちが、野太いおっさんの声で殺伐としたセリフを言っていくという図式は非常に見ごたえがあります。
それに加え、本編時間が「765秒」になるように調整されていたり、途中のCMのクオリティの高さなど投稿者の「gamm」氏の情熱を感じさせる作品となっています。
アニメ本編を基にしたコマンドー動画の存在は前編でもご紹介しましたが、ドンマスとそれまでの動画と一線を画す点があります。
それは「コマンドー動画にストーリー性を加えた事」です。
それまでのアニメ本編MADは本編の1シーンだけを抜き取って作られた所謂「一発ネタ系」だったのに対し、ドンマスはアニメの1話を丸々をコマンドー色に染め上げています。そして1話から2話、3話を基にMADが制作され、ドンマスを単発動画としないシリーズものとして成立させました。
そして1話ではコマンドーのみを素材にしてましたが、話が進むにつれて、ターミネーター、プレデター、イレイザー、などのコマンドー以外のシュワルツェネッガー作品を素材として使用されていくようになりました。
こうしてに現在まで続くコマンドー動画の基本形
①アニメ本編のセリフなどを改変していくアニメ本編吹き替えMAD
②コマンドーだけでなくそれ以外のアクション映画などを音声素材に利用する
が確立したのでした。
※6月12日追記
アニメ本編1話をコマンドーMADにするというのを最初に行ったのはゆるゆり×コマンドーの『\アッカデエエエェェェン!!/』でした。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm15036133
そしてこの形式によるアニメ本編MADが次々と投稿されていきました。
その中には現在もコマンドー動画を制作していらっしゃる方々も見受けられます。
ソードアートオンライン×コマンドーの「ドンパチアート・オンライン」
「なちうさ」などの総統閣下シリーズでもお馴染みの「わぐ」氏制作
這いよれニャル子さんと組み合わせた「這うよれ!ニャルコマンドー」(※現在全話削除)
https://www.nicovideo.jp/watch/sm17565004
洋画好きが高じて洋画紹介ブログも手掛けている「エヴァオタ 」氏制作
じょしらく×コマンドーの「コマらく」
またニコニコ動画御三家である「アイドルマスター」の動画が投稿されたことによってニコニコにおけるコマンドーの地位は不動のものとなり、認知度も大きくなりました。
その影響か、2012年から13年までの間に異色のコマンドー動画が投稿されていきました。
コマンドー本編をサインペンで描いてみた
「コマンドー名言集・紙芝居版」
https://www.nicovideo.jp/watch/sm20382063
MMD再現MAD
「【東方MMD】パチュリーによるコマンドー解説」
来いよミクット!銃なんか捨ててかかってこい!
もちろん音MADも投稿されています。
【コマンドー】戦争曰く燃えよカカシ【這いよれ!ニャル子さん】
【コマンドー】めざせ!ベネモンマスターのうた
様々な動画が投稿されていくなか、そんなネットでの賑わいをかぎつけた資本主義者ども20世紀Foxが「吹き替えの帝王」シリーズを始めます。
映画の吹き替え音声をセールスポイントとしたこのレーベルでの記念すべき1作品目が「コマンドー」でした。
これまでDVDでしか収録されていなかった玄田哲章版吹き替えだけでなく、未収録であった屋良有作版吹き替えも収録したブルーレイは五千枚限定の予定が予約が殺到したことにより、急きょ一万セットPONと増産する事になるという異例の事態が発生しました。
そして発売日の翌日にあたる2013年4月19日ニコニコ生放送において視聴者が各自ブルーレイを再生しながらお送りするという前代未聞の映画座談会
映画「コマンドー」を約65倍くらい楽しむための
『来いよベネット!みんなで叫べ!オレたちのコマンド―祭』
が放送されます
この熱狂ぶりからも当時のニコニコにおいてコマンドーがどれ程高い人気を誇っていたのかがわかります。
しかしながら一方でこの頃から、コマンドー動画に変化が起きるのです。
4.コマンドー動画の変容~主流動画の交代~
ドンマスによって確立されたアニメ本編MADは多くの人によって制作されていきました。
その一方で今まで主流であった音MADの投稿が激減していったのです。
見ての通り純粋な再生数やコメント、マイリスでいったら音MADの方が圧倒的に上です。
しかしながら音MADそのものが全く供給されなくなっていったのです。
どんどん新作が投稿されていくアニメ本編MADに対して、供給が止まってしまった音MAD、
コマンドー動画における主流がしだいに交代していったのです。
では、一体なぜこのような交代劇がおきたのか?
以下の3つであると筆者は考えます。
①アニメ本編MADの作りやすさ
②名言の普及
③アニメ本編MADの独特さ
まず①作りやすさ ですが、
アニメ本編MADは
アニメ本編の映像についてる本来のセリフにコマンドーのセリフにあてる
これだけで作れてしまうのです。Windowsのムービーメーカーでもできてしまう程です。
つまり動画制作の敷居が非常に低いのです。
では音MADはというと音感はもちろん必須ですし、それ以外にも音程を調整するソフトも必要となります。
映像もある程度加工を加えないとみるに堪えない場合が多いのが音MADですので、自然と映像を加工する技術やソフトも必要となります。
他にも前述した手書き動画には画力が、MMDですと3Dの映像技術が必須となります。
音MADにしろ、本編MADにしろ、コマンドーMADに興味を持ったトーシローが本編MADを最初に作り始めるのは当然と言えば当然なのです。
続いて②名言の普及 ですが、
前述した「吹き替えの帝王」によりコマンドー含め洋画の吹き替えの魅力やセリフそのものがネット上に広く伝わりました。
それによって、より多くの人が本編MADで使われるセリフを楽しむ事ができるようになりました。
これによってアニメ本編MADの需要が高まっていきました。
そして③独特さ
本編MADは作りやすいと言いましたが、これは一方でコマンドーなどの洋画のセリフに依存した構造となっていることを意味しています。
音MADは別にコマンドーを素材にしなくても音MADそのものは作れます。手書きやMMDについても同じです。
しかし、本編MADだけはそうはいきません。できたとしてもコマンドーではなくランボーを素材にするなどの程度でしか活用法がないのです。
つまり、動画投稿者がコマンドー動画以外に流出しにくいのです。
以上が筆者の考察になります。
5.コマンドー動画の現状~動画投稿者、自給自足を始める~
2014年以降はアニメ本編MADが主流になります。
「艦隊これくしょん」のアニメを基にした動画は3つできました
またコマンドーアニメ吹き替えリンクなるタグができるようになりました。
一方で今までコマンドー音MADを手掛けていた「Matliyax」氏は2015年を最後に投稿が停止しました。
そうした中、本編MADを手掛けていた人達がまるで自給自足をするかの如く音MADも手掛けるようになっていったのです。
「艦隊コマンドー1(前半)」をてがけた「まん☆ぼう」氏によるごちうさ二期OPMAD
「エヴァオタ」氏が「ハナヤマタ」を基にした「ハメヤガタ」のEDの単体
6.最後に
そして2017年、ニコニコ動画で初のコマンドー動画が投稿されて10年が経過しました。
その間にカリフォルニア州知事だったシュワルツェネッガーは2013年にラストスタンドで映画俳優として完全復帰し、2015年の「ターミネーター:新起動/ジェニシス」にてT-800としてターミネーターシリーズに戻ってきました。
また2015年にはコマンドー30周年を記念して吹替の帝王シリーズの第8弾として
『コマンドー ディレクターズ・カット<製作30周年記念日本語吹替新録版>』が発売されました。
公開から30年以上もなお愛され続けられる映画「コマンドー」。
ニコニコでは今も新しいコマンドー動画が次々に投稿されています。
この10年間の変遷をこの前後編のコラムで追っていきましたが、変わらないことが一つあります。
楽しんで動画を作っている動画投稿者たちと楽しんで動画を視ている視聴者たちです。
最終的にダイジェストになるごり押しの音MAD、何かと金をせびる資本主義者やヤクでもやってそうなバカ女が跋扈するアニメ本編MAD。そんなお約束を何度見てきただろうか。
しかし、そんなお約束であっても、いやお約束であるからこそ多くの人がコマンドー動画を楽しんでいるのです。
動画を楽しむ心がある限り、コマンドー動画はいつまでもなくなりはしない。何度でも「戻ってくる」のだと私は信じています。
最後に「エンド・オブ・デイズ」のサタン様のお言葉をもって筆をおくことにします。
「私と一緒に新しいコマンドーMADを作ろう。毎日が楽しいぞぉ」
早くドンマス24話をバックから出しなよ・・・・
ご拝読ありがとうございました。I'll be back!
コラム:ニコニコ動画史におけるコマンドー動画の変遷について~前編~
注意:本記事はニコニコ動画のブログサービス通称「ブロマガ」にて2017年5月23日に公開された記事をブロマガ終了に伴って移行したものになっております。
アーノルド・シュワルツェネッガー主演のアクション映画『コマンドー』。
劇場公開から30年以上たっても根強い人気を誇り、テレビ放送されればネットではお祭り騒ぎ、吹き替え二種を収録したブルーレイは当初5000枚限定のはずが予約が殺到したことにより急遽1万枚に増産され、制作30周年を迎えた2015年にはまさかの新吹き替えを収録されたディスクが発売される、などからもその人気の高さが伺えます。
ニコニコ動画においても定期的に新作動画が挙げられ、一大コンテンツとなっています。
そのコマンドー動画はニコニコにおいてどのような変遷を辿ったのか、本記事で取り上げていきたいと考えてます。
1.コマンドー動画黎明期~この頃からすでに原型はできていた~
まず最古のコマンドー動画が投稿されたのは今からちょうど10年前です。↓
「FF:U」というファイナルファンタジー原作のアニメ作品×コマンドー、といいたいのですが後半のコラ画像がメインのようにも感じます。
そして、2007年7月20日にコマンドーが日本テレビの「金曜ロードショー」で放送された影響か、7月に数本の動画が投稿されています。
その中で特に注目すべきなのが以下の二つです
この二つを視ていただければお分かりになると思いますがこの二つの動画は、コマンドー本編とは直接関係のない番組予告音声を素材に利用する、アニメ本編にコマンドーのセリフを挿入する本編吹き替えMAD、という点です。
これは2017年現在におけるコマンドー動画における
①コマンドーだけでなくそれ以外のアクション映画などを音声素材に利用する
②アニメ本編のセリフなどを改変していくアニメ本編吹き替えMAD
という要素はコマンドー動画黎明期の時点で誕生していたという事を示しています。
その後ゴリ押し音MADである「シュワ✩すた」
プレデターやターミネーターなどの他作品も素材として使用している点にも注目したい。
アニメ吹き替えMADである「『短編動画』コンボイVSベネット』」
地味に口パクと音声が一致している
などが投稿されますが、徐々に下火になっていきます。
しかしながら2008年9月18日にコマンドーが木曜洋画劇場にて放送された事(放送3週間前に2chのテレ東実況板に本スレが立った逸話もこの放送)がきっかけに再びコマンドー動画の人気に火が付き、
「きしめんコマンドー」を契機に次々にコマンドー動画が投稿されていきます。
音MADも洗練されているのがわかります。
また上のの音MADを制作した「yhmfsng」氏によりコマンドーランキングが投稿され、当時の熱量の高さを知ることができます。
2.コマンドー音MAD最盛期~人力ロイドもこの頃から~
2009年10月に「コマンドコマンド【マイムマイム】」という音MAD動画が投稿されます。
この動画の影響は凄まじく、「歌ってみた」で投稿する人も出てきた事からも当時の熱狂は伺えます。
本動画を制作した「Matliyax」氏は同年の5月頃からコマンドー動画を投稿し始め、その後もコマンドー動画を投稿しています。
その後「けいおん!!」MADでコマンドー動画が音MAD界以外にも浸透していっています。
「放課後ドンパチタイム」なるニコニコ大百科記事も作られています。
本編吹き替えMADも少しずつでありますがあがってきています。
こちらも「ホマンドー」なる大百科記事が
そして2011年4月、コマンドー動画に大きな波が訪れます
そう、「日常OPMAD」です。
上はこの頃にはコマンドーMAD常連となっている「Matliyax」氏。
下は現在も活動中(ただしコマンドーMADは作っていない・・・)「単三型」氏
後にNHKで放映されるという快挙をなしとげたTVアニメ『日常』、当時大人気だったアニメのOPMADが同時に二つも投稿された事の影響の大きさは測りしれません。
更に同じ作者たちによって二期のOPMADが投稿され、更にコマンドーの人気は高まります。
一期と二期で再生数が逆転してるのも面白いですね。
音声素材を単体で投稿されるようになったのもこの頃からです。
ニココモンズに登録されるのは2012年9月頃から
そして、コマンドー動画の歴史にもっとも影響を与えたといっても良い『あの動画』が登場する事になります・・・
と、ここまでコマンドー動画の歴史を約4年半ほど辿っていきましたが、
もうこの時点でかなりの文字量となっていますので、ここで一旦締めさせていただきます。
後編はこちら。
ご拝読ありがとうございました。